法務省のHPによると、令和元年6月末現在における中長期在留者数は約251万人、特別永住者数は約32万人で、これらを合わせた在留外国人数は約283万人となり、前年末(約273万)に比べ、10万人近く(3.6%)増加し、過去最高となりました。
このように在留外国人が増加する中、長年日本で暮らし、財産も日本にあるという外国人の方も増えていると思います。このような外国人が日本で遺言をするにはどのようにすればいいのでしょうか。
1 外国人の遺言についての注意点
~どの国の法令が適用されるのか(準拠法)~
外国人が日本で遺言をする場合、どの国の法令が適用されるのか(➡「準拠法」といいます。)に注意する必要があります。
遺言については、次の2つの点で、この準拠法の検討をすることになります。
①遺言の方式について
②遺言の成立・効力について
以下、順に説明します。
2 遺言の方式の準拠法について
結論からいうと、在日外国人は日本法(民法)による方式、つまり、自筆証書・公正証書等による遺言をすることができます。
この点、「遺言の方式の準拠法に関する法律」第2条には、次のような規定があります。
遺言は、その方式が次に掲げる法のいずれかに適合するときは、方式に関し有効とする。
① 行為地法
② 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
③ 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
④ 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
⑤ 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法
在日外国人が日本で遺言する場合、上記の①、③又は④を満たしているため、日本法(民法)の方式に従って遺言をすることができることになります。
なお、公正証書は日本語で作成するため、もし当該外国人が日本語に通じていない場合は、通訳人の通訳の下に証書を作成することになります。
また、公正証書遺言の作成には遺言者の押印が必要とされていますが、印鑑がない場合は「指印」によることも可能と解されています。
さらに、「遺言の方式の準拠法に関する法律」第5条によると、遺言者の年齢に関する遺言能力の点、証人の立会いの点については、いずれも遺言の方式の範囲に属するとされていますので、これらについても日本法(民法)によることになります。したがって、証人についていえば、遺言者が外国人の場合も2名以上の証人の立会いが必要です。
3 遺言の成立・効力の準拠法について
在日外国人の作成した遺言について、その成立(例えば、年齢以外の遺言能力などの点)や効力(例えば、遺言の効力発生時期などの点)は、遺言者の本国法に従うことになります(「法の適用に関する通則法」37条第1項)。
また、相続についても被相続人の本国法に従うとされています(「法の適用に関する通則法」36条)。
したがって、当該外国人の国籍保有国(本国)の法令の規定に基づいて、遺言の有効性が判断され、かつ、その効果が発生することになり、相続人の範囲や遺留分等についても国籍保有国(本国)の相続法によることになります。
このように、相続や遺言に関する国籍保有国(本国)の法令の内容を十分調査・チェックしておく必要があるといえます。
この点、諸外国の相続法については、相続統一主義と相続分割主義があり、遺産の処理方法が異なる場合がありますので、当該外国人の本国法がいずれを採用しているかを確認しておくとよいでしょう。
相続統一主義とは、不動産・動産の区別なく、本国法を適用する考え方で、日本の民法もこれを採用しています。一方、相続分割主義とは、不動産・動産を区別し、不動産についてはその所在地の法を、動産については被相続人の住居地の法を適用する考え方です。
また、当該外国人の本国法によっては、「反致」と呼ぶことが起きることもあります(「法の適用に関する通則法」41条)。
反致とは、いったん「本国法による」とされたものの、その本国法の方が「日本法による」旨の規定になっている場合(例えば、本国法が遺言の準拠法を遺言地法としているときに、日本で遺言をした場合)のことをいいます。
このように外国人の方が日本で遺言をする場合は、本国の法令を調査・チェックすることをお勧めしますし、この点も含め、専門の士業者に相談されるとよいでしょう。
九段南行政書士事務所