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2020.11.16 COLUMN

親なき後の障がいのある子の生活を支える仕組みについて~遺言、家族信託(福祉型信託)、生命保険信託など~

1 はじめに

 障がい者の親が亡くなったり、高齢・病気等により親が障がいを持つ子の面倒をみることができなくなった場合、その財産管理や生活支援をどうするのか、という「なき後」問題については、前回(2020年10月26日)、任意後見契約の利用を中心にお話ししました。今回は、遺言、家族信託(福祉型信託)、生命保険信託などについて説明したいと思います。

 親なき後に、障がいのある子が経済的に困るのではないか、せっかく財産を残してもその財産をちゃんと管理できないのではないか、などといった不安をお持ちの親御さんは多いと思います。できるだけたくさんの財産を障がいを持つ子に残したいという気持ちはよく理解できます。しかし、お金をたくさん残すことも大事かもしれませんが、障がいのある子が経済的に困らないようにするためには、そのお金を子のために適切に使うことができる仕組みをととのえておくことがより重要だといえます。

 後見制度のほかにも、いろいろな制度・仕組みがあります。

 

2 遺言について

 まず、例えば、障がいのある子Aに複数のきょうだいがいるような場合、親は、Aに残したい財産や金額等を遺言によって具体的に指定することができます。ただし、障害のあるAの将来を思って大部分の財産をAに取得させたいと願っても、他のきょうだいが不公平感を抱いて遺言に納得しなければ、きょうだい間の紛争になる可能性があります。一定の相続人が法律上取得できると保証された「遺留分」があるからです。もし、Aにより多くの財産を残したい場合は、災いを避けるために、他のきょうだいの気持ちに配慮し、生前他のきょうだいに親の心情や理由をよく説明し、その了承を得ておくことなどが必要でしょう。親の心情等を「付言事項」として遺言に記載しておくことも有益です。

 なお、障がいのある子に「きょうだい」がいて、当該子のほかに法定相続人がいるときは、親が大きな財産を持っていない場合であっても、一般的に、遺言書(公正証書遺言が最も安全・確実です。)を作成しておくことが望まれます。遺言がないと、法定相続人による遺産分割協議が必要になり、障がいのある子に遺産分割協議をするのに必要な判断能力がない場合は、家庭裁判所に法定後見人の選任をしてもらうことになります。時間や費用がかかる上、希望する候補者が後見人に選任されるとは限らず、しかも、遺産分割協議が終わっても後見人は継続して後見業務に当たることになります。

 

3 家族信託(福祉型信託)について

 高齢者や障がい者の生活を支援するための信託を「福祉型信託」といいます。委託者である親が信頼できる相手を受託者として信託契約を締結し、委託者が希望する方法によって、財産を管理しつつ、遺された子の生活・療養・介護等に必要な資金の給付を安定的に確保することができます。

 例えば、高齢の夫婦に障がいのある子がいるケースでは、受託者を信頼できる親戚や司法書士・行政書士等とした上、委託者(夫)を第一受益者とし、委託者が亡くなった後はその配偶者(妻)を第二受益者とし、配偶者が亡くなった後は障がいのある子を第三受益者とする信託契約(このような類型を「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」といいます。)を締結し、両親が亡くなったときは、契約で定められたとおり、障がいのある子に対して定期的に一定額のお金を交付したり、必要に応じてお金を交付したりすることになります。

 さらに、この信託契約で、障がいのある子が亡くなったあとの財産の行き先を決めることもできます。子の死亡時を信託の終了時とし、もし信託の残余財産があれば、その権利帰属者にお世話になった社会福祉法人等を指定することができるのです。

 遺言能力のない子に相続人がおらず、残った財産が最終的に国庫に帰属してしまうようなケースにおいて、信託契約により、財産の最終的な行く先まで親が指定することができることになります。

 

4 生命保険信託について

 3で述べた家族信託のほかに、生命保険会社が提供する「生命保険信託」というサービスがあります。生命保険における死亡保険金の受取人は家族などの個人ですが、この死亡保険金を信託財産として信託銀行等との間で信託契約を締結するというものです。一般的に、死亡保険金は受取人が「一括」で受け取ることになります当該受取人が財産を適切に管理できるかどうか不安がある場合、生命保険信託は大変有用な制度といえます

 例えば、親が自分を被保険者、障がいのある子を保険金受取人として生命保険契約を締結し、自分の死後は、死亡保険金の管理や交付を行う信託銀行等が、子(受益者)に毎月一定額の生活資金を交付したり、医療介護費学費相続税などの臨時の支出に対応するための一時金を随時交付したりする、という仕組みです。最終的には、残余の死亡保険金を社会福祉法人や各種団体等に寄付する条項を設けることも可能です。

 この場合、「指図権者」を事前に定めておくことができ、受取人(受益者)である子の代わりに諸手続きを指図権者が行うとすることが可能です。この指図権者には、親族のみならず、後見人、司法書士法人などを選ぶこともできます

 なお、この生命保険信託はすべての生命保険会社で利用できるわけではなく、現時点では、プルデンシャル生命、ソニー生命、第一生命などが取り扱っています。また、生命保険信託は、生命保険契約のほかに、信託契約を締結することが必要となり、契約時と信託開始後に信託銀行等に対して手数料等の費用がかかります。

 

5 その他~特定贈与信託、信託銀行の「遺言代用信託商品」など

 特定贈与信託は、重度の障がい者であれば6000万円、中軽度の知的障がい者等であれば3000万円を限度として贈与税が非課税となる制度です。また、信託銀行の「遺言代用信託商品」についても、各信託銀行が各種の信託商品を扱っています。詳細は各信託銀行に問い合わせるとよいでしょう。

 このように、さまざまな制度・仕組みがありますので、どれが最もふさわしいのか、又は、制度や仕組みをどのように組み合わるべきなのか、専門の士業等とよく相談をするのが妥当と思います。九段南行政書士事務所