🍀家族信託ブームは平成28年頃からか
公証役場で平日働いていますが、家族信託契約書が平成28年頃から公証役場に持ち込まれるようになってきました。
この頃からある司法書士法人が、ポツポツと持ち込んでくるようになりました。この司法書士法人は少なくとも平成28年には家族信託を中心に掲げており、その後、急成長を遂げています。今、「家族信託、家族信託」と任意後見に優るものという位置づけで盛んに宣伝されていることが多いようですが、このブームの始まりを公証役場で感じたのは平成28年頃からでした。
任意後見契約は必ず公証役場で作成されるものですが、今ブームの家族信託契約書は必ずしも公証役場で作成する必要はありません。
🍀家族信託契約書を公証役場(公正証書)で作成するメリット
必ずしも公正証書で作成する必要のない家族信託契約書ですが、公証役場で家族信託契約書を作成するメリットについて、今回は説明したいと思います。
これは各士業の方からもよく質問を受けますので、公証役場で作成するメリットを挙げたいと思います。
下記の点が挙げられます。
(1)家族信託契約は新しい分野で判例も少ないため、単なる私人間の契約として私文書で作成するより、公証人が作成する信用性の高い公文書で作成したほうが安心。
(2)私文書で作成すると、紛失する可能性もあるが、公正証書で作成すると、公証役場に原本が保存されるため、紛失、毀損、改ざんの恐れがない。
(3)公正証書は、当事者の本人確認と、判断能力の有無が確認された上で作成される。
(1)から(3)について説明します。
まず、(1)ですが、安心というのは、二つの意味があります。
①リーガルチェックが二重にされること。
②法廷で争いとなる側面も考慮したアドバイスを得られることがあること。
①は、例えば、Aという士業の先生が、原案を公証役場のB公証人に持ち込むと、法律家によるリーガルチェックが二重にされることになります。
A先生が作って終わり、の場合よりもリーガルチェックが二重かつ多角的にされることになりますので、より安心です。
②の点については、当事者側の視点からでは時には意識が及ばない点についても、事案に応じたアドバイスが得られることがあります。
家族信託の場合、大抵、受託者は委託者の相続人がなっています。この受託者と他の相続人が委託者の財産を巡って対立する可能性もないとは言えません。家族信託契約書の作成時に既に将来相続人となる者同士が仲が悪いときなどは、遺留分に配慮する等、より一層慎重に作成する必要があります。公証人に依頼することで、そのあたりの点もアドバイスが得られます。依頼する際には家族関係情報や相続関係図なども添えることをお勧めします。より的確なアドバイスが公証人から得られると思います。(もちろん一般的な法律相談は公証人は受けられませんので、持ち込まれた原案に基づいて証書化する上でのアドバイスとなります。)
次に(2)の保存についてですが、これは次の(3)と同じくらい最大のメリットと言えるかもしれません。
後継ぎ遺贈的要素も多い家族信託契約ですので、公証役場では、(少なくとも私の勤める公証役場では、)作成した信託契約書は、遺言公正証書と同様の「長期扱い」で原本が保存されます。
遺言と同様の保存扱いとは、具体的には、(私が勤めている公証役場の例ですが、)かなり古いものでも遺言は一切廃棄したことがありません。(因みに、長期扱いでない通常の公正証書の保存期間は20年。公正証書は、作成した各公証役場ごとの保存となります。)
これは、別途に保存料や保管料を頂いているわけではありませんので、実質無料の大サービスだと思います。
廃棄、毀損、改ざんの恐れがなく、無料で半永久的に保存されますので、当事者同士が各自の責任で保存する私文書より安全性の面からもかなり安全と言えます。
最後に(3)ですが、公正証書は、「当事者が合意している内容を公証人が録取し作成する」ので、作成名義人は公証人となります。
作成名義人が当事者本人ではなく、公証人ということは何を意味するのか、について、最後に説明します。
・公証人が、当事者の本人確認と本人の意思を確認して作成している。
・本人の意思を録取するにあたっては、本人の判断能力も問題ないか確認している。
こうした確認をした上で公証人によって作成されるのが公文書である公正証書です。
これらの確認は、紛争予防の観点からも非常に大事なポイントとなります。
🍀今回は、家族信託契約書を公正証書で作成するメリットを挙げました。ご意見等ありましたら、お手数ですが、いつでもお問い合わせフォームよりお願いできればと思います。九段南行政書士事務所