葬儀やお墓の希望は遺言書に書けるの?~その希望を実現する方法について
1 葬儀・お墓の希望
「終活」に対する意識が高まっていますが、自身の葬儀やお墓についても、さまざまな希望があると思います。例えば、葬儀については、葬儀や告別式を執り行わない「直葬」や、葬儀を行うにしてもなるべく簡素なものを希望する場合、又は、自身が信仰する特定の宗教・宗派での葬儀を希望する場合など、お墓については、夫の墓ではなく生家の墓に入ることを希望する場合、永代供養や、散骨(又は樹木葬)を希望する場合などです。
2 遺言書に書ける? ~遺言事項と付言事項
これらの希望は遺言書に書けるものでしょうか?
結論からいえば、書くこと自体は妨げられませんが、記載しても、遺言としての法的効力(強制力)は認められないことになります。つまり、遺言として法的効力が認められるのは、民法で定められた財産と身分に関する事項(遺言事項)に限られており、葬儀やお墓の希望に関するものは、こうした法定の遺言事項ではないからです(事実上の効力にとどまるものを一般に「付言事項」といいます。)。
もっとも、付言事項として遺言書に記載しておけば、その遺言書を見た相続人が、遺言者の最終意思を実現することに努めてくれることが期待されます。相続人との関係が良好で信頼関係があれば、通常はこれで足りるように思います。
ただし、葬儀等に関する希望が、葬儀等終了後に明らかになっては意味がないので、生前に希望内容を相続人らによく伝えておくとともに、遺言書に記載した場合は、死後これがすぐに見つかり、内容が分かるように、相続人や信頼できる人にそのような遺言の存在と保管場所等を伝えておくなどの工夫が必要でしょう。エンディングノートなどの活用も考えられます。
3 拘束力を持たせるには? ~負担付き遺贈、死後事務委任
相続人との信頼関係がない場合などでは、付言事項として記載するだけでは希望どおり葬儀等が実施されない不安を抱く場合も当然あるでしょう。特に、遺言者自身が信仰する宗教・宗派と、相続人・遺族の信仰する宗教・宗派が異なる場合などでは、遺言者の希望する宗教・宗派の儀礼・方式とは異なる宗教の方式等によって葬儀が実施されてしまうおそれがありますし、夫の墓ではなく生家(実家)の墓に入ることを希望していても、そのとおり実現されないおそれがあります。
上記のおそれが高い場合などでは、遺言の内容に一定の拘束力を持たせる工夫が必要と思われます。
信頼できる人を受遺者(遺贈を受ける人)として、遺言書に、次のような「負担付き遺贈」の条項をもうけるのがその一例です。
「第〇条 遺言者は、遺言者の有する下記預金債権を、甲野花子(昭和〇年〇月〇日生、住所○○)に遺贈する。
記
乙銀行丙支店 遺言者名義普通預金口座番号(○○○○○○〇)
2 甲野花子は、前項の遺贈の負担として、遺言者の葬儀・埋葬を以下のとおり実施するものとする。
① 遺言者の葬儀は、遺言者の信仰する○○宗○○派の儀礼、方式にのっとって執り行う。
② 遺言者の遺骨は、○○宗が○○市において設営する○○納骨堂に納骨する。」
しかし、受遺者側が遺贈を放棄することによってこうした死後事務処理の負担を免れることは原則として自由ですので、遺言者の思いが実現しないことになりかねません。
そこで、葬儀の方式等に対する希望内容を、信頼できる人を受任者とする死後事務委任契約の委任事項に含ませることが考えられます。
この場合、委任者の死亡を契約の終了原因としないこと、委任者の相続人が契約を解除できないようにすることなどの工夫が必要ですし、死後事務をお願いする人に対して報酬を確実に支払う工夫(報酬の前払いなど)も求められます。どのような方法がふさわしいのかは、その方その方の状況に則して検討していくことになります。
九段南行政書士事務所